作業環境管理/化学物質管理

化学物質の「自律的な管理」の背景

化学物質数は増加の一途をたどり、米国化学会の登録番号 (CAS RN®)制度によると2022 年6 月現在約2億に上る。またその用途も多岐にわたり、使用形態も多様化している。現在日本で工業的に使用されている物質数は約7 万と言われるが、労働者へのばく露を少なくするために管理濃度が定められている物質数は97、容器・包装等のラベルへの危険性・有害性の記載、安全データシート(SDS)の交付及びリスクアセスメントの実施が義務づけられている物質数は674 物質(2022 年12 月時点)にとどまる。わが国では化学物質による事故が跡を絶たないが、原因の一つとして、労働災害防止を目的としたさまざまな措置が定められている物質の数が限られ、事業者はこれらの物質の対策に注力し、それ以外の物質への対策がおろそかになったこと、或いは危険・有害性が不明であるが措置等が定まっていない物質へ切り替え使用したことが指摘されている。

このような現状に鑑みて、労働者の健康を確保、維持するために職場の化学物質管理を広範な物質に拡大し、より合理的に実施するための政省令改正が行われた。これは従来の「個別規制型」から「自律的な管理」への移行を促進するものである。そのための制度改革の重要な柱として、化学物質を扱う職場では事業場規模にかかわらず「化学物質管理者」を選任することが義務付けられた。化学物質管理者は、事業場における化学物質の管理に係る技術的事項を管理するものとして位置づけられており、表示及び通知に関する事項、リスクアセスメントの実施及び記録の保存、ばく露低減対策、労働災害発生時の対応、労働者の教育等の職務がある。 「自律的な管理」においては、特に労働者に対する取扱い物質の危険性・有害性に関する情報伝達及びリスクアセスメントに係る事項が重要であるが、これらは「個別規制型」においては十分に整備・活用されてこなかった。「自律的な管理」においてはこれらについて改正が行われ、より広範・柔軟に活用されることが期待されている

  ※埼玉産業安全衛生大会(2024年10月17日:RaiBoC Hall レイボックホール)において埼玉支部から椎名孝夫会員が労働衛生「職場における管理」を講演した資料を掲載しています。